発泡酒なのにクラフトビール?発泡酒の定義やビールとの違いとは?

発泡酒なのにクラフトビール?発泡酒の定義やビールとの違いとは?

みなさんこんにちは!
ついにホップの家庭菜園にチャレンジすることになったCRAFT BEER TIMES編集部の熊倉です。

この世界には数えきれないほどたくさんの種類のビールがあるということは、ビール好きの皆さんであれば既にご存知のことだと思います。

それでは、「発泡酒」とはどんなビールかわかりますか?

なんとなく「お財布に優しいビール」というイメージがありますよね。

意味合いで言えばそれでだいたいOKなのですが、厳密には発泡酒の定義には日本の酒税法が関わってきます。

そしてこの発泡酒の定義は、実はクラフトビール的にも大きく関わってくる事柄なのです。

というわけで今回は発泡酒とクラフトビールの関係について解説していきたいと思います。

  • 発泡酒ってどんなお酒?
  • そもそもビールとなにが違う?
  • クラフトビールなのに発泡酒に分類されるのものがあるのはなぜ?

このような疑問を徹底解明していきます!

小難しい話になるかもしれませんが、できるだけわかりやすく噛み砕いて説明をしていきますので、ぜひ最後までご覧ください!

ビール類について

ビールと発泡酒。
似ているようでちょっと違うこのふたつは、日本の酒税法によって定められています。

具体的には「麦芽の使用比率」・「原材料」の違いによってビール類は分類されます。

ビール類という言葉を使いましたが、このビール類には「ビール」・「発泡酒」のほかに「新ジャンル」という種類も入ります。

以下、これらのビール類の定義の違いを簡単に解説していきます。

ビールの定義

まずは皆さんお馴染みの「ビール」です。

ビール類の中で最も麦芽使用比率が高く、モルトの芳醇なコクと風味を感じることができます。

麦芽使用比率は50%以上、副原料の使用は麦芽量に対して5%以下の基準があります。

【代表的な銘柄】
キリン一番搾り・アサヒスーパードライ・サッポロ黒ラベル・サントリープレミアムモルツなど

発泡酒の定義

発泡酒は日本では安価なビール類として私たち消費者に親しまれています。
1994年にサントリーから「ホップス」が発売されたことから、発泡酒はその市場を拡大していきました。

発泡酒は製法によってさらに2つに分類することができます。

ひとつは麦芽の使用比率を下げたタイプです。
麦芽使用比率を50%未満〜25%以上にすると酒税がビールよりも安くなり、25%未満まで麦芽比率を落とすとさらに酒税は安くなります。

もうひとつが副原料によるものです。
ビールには国によって使用できる原材料が定められています。
その定義にない原材料(=副原料)を規定量を超えて使ったものは、たとえ麦芽使用比率が50%以上であっても発泡酒に分類されます。

【代表銘柄】
キリン淡麗・アサヒスタイルフリー・サッポロ極ZEROなど

新ジャンル(第3のビール)の定義

発泡酒よりもさらに安価なビール類としてつくられているのがこの新ジャンルです。

発泡酒に麦由来のスピリッツを加えたものと、麦芽以外の原料を使用して味をビールに近づけたものがあります。
現在の新ジャンルは前者の製法を用いた商品が主流です。

2004年のサッポロ「ドラフトワン」から始まった新ジャンルは、発売当初からしばらくの間「価格が安いだけで美味しくない」と評価されていました。
しかし近年は各社ビールメーカーのたゆまぬ技術開発のおかげで、かなりビールに近い味わいまで品質が向上しています。

【代表銘柄】
キリンのどごし生・キリン本麒麟・アサヒクリアアサヒ・サッポロ麦とホップ・サントリー金麦など

ビール類と酒税法

ビール類には3種類があり、それらは酒税法によって分類されていることがわかりましたね。
これらビール類の分類は日本の酒税法独自のものであり、海外産のビールも日本で流通される場合はこの分類がなされています。

ビール類は酒税法によって分けられているため、法律が変わればビール類にも変化が起こります。
直近では2018年4月に酒税法の改正があり、その中でビール類に関わる大きな変更がありました。内容は以下の2点です。

  1. ビールの麦芽比率と副原料の使用品目の緩和
  2. ビール類の酒税一本化

それぞれの内容を解説していきます。

1. ビールの麦芽比率と副原料の使用品目の緩和

酒税法改正によって、2018年4月1日からビールの定義の一部が変更となりました。

そのひとつがビール麦芽使用比率の67%から50%への引き下げ

もうひとつが、使用可能な副原料の解禁です。
従来使用が許されていた米やトウモロコシなどに加えて、果物やスパイスなどの副原料の使用が認可されました。

解禁された副原料は以下の通りです。

  • 果実
  • コリアンダー(種を含む)
  • こそう・シナモン・クローブ・さんしょう・その他の香辛料またはその原料
  • カモミール・セージ・バジル・レモングラス・その他のハーブ
  • かんしょ・かぼちゃ・その他の野菜
  • そば・ごま
  • 蜂蜜・その他の含糖質物・食塩・みそ
  • 花・茶・コーヒー・ココア・これらの調製品
  • かき・こんぶ・わかめ・かつお節

この酒税法の改正は、ビールの定義の拡大を進めることとなりました。
これまで発泡酒扱いされていたものがビールに変わり、原材料の規制が緩和されたことでより多様なビールをつくることが可能となったのです。

2. ビール類の酒税一本化

これまでビール・発泡酒・新ジャンルにかかる酒税の税率はバラバラでしたが、この税率が一律に揃うこととなります。

つまりビール・発泡酒の酒税は安くなり、新ジャンルの酒税は高くなることになるのです。

この一本化は、2020年10月から始まり、2023年10月、2026年10月の3回に分けて段階的に行われます。

酒税一本化による350ml当たりの酒税の変化

ビール類〜2020年9月2020年10月〜2023年10月〜2026年10月〜
ビール77円70円64円55円
発泡酒(麦芽比率:50%未満25%以上)62円59円55円55円
発泡酒(麦芽比率:25%未満)47円47円47円55円
新ジャンル28円39円47円55円

【参考】税務署「酒税法等の改正あらまし

このように、2026年10月にビール類の350ml当たりの酒税は統一されることが予定されています。

われわれ消費者としてはビールの価格が安くなるのは嬉しい反面、コスパの良かった新ジャンルが実質的に値上げとなるのはおサイフ的に痛いところですね…

クラフトビールと発泡酒の関係

さて、ここまでビールや発泡酒の定義と、それに関わる酒税法について解説してきました。

それではここからは「クラフトビールと発泡酒の関係」についてフォーカスしていきたいと思います。

品質の高いクラフトビールでも発泡酒?

ビールの味わいや風味を残した発泡酒は、安価なビールの代替品として私たち一般消費者に親しまれています。

しかしながら本物志向の観点から考えると、麦芽使用比率の低い発泡酒はビールに劣るものと考えられてしまうということも事実です。
また、発売当時の発泡酒は品質があまり良くなく、そのイメージを今も持っている人も少なからずいることでしょう。

しかし、日本の発泡酒の定義はあくまで日本国内の法律上の定義です。
麦芽の使用量や原材料の規定から外れてしまえば、麦芽から醸造されたお酒はビールではなく発泡酒に分類されてしまいます。
なので、どんなに素晴らしい品質のクラフトビールであっても発泡酒と名乗らざるを得ないこともあるのです。

例えば、酒税法改正前の日本では、ベルジャンホワイトの元祖として有名なベルギービール「ヒューガルデンホワイト」ですら発泡酒に分類されていました。

日本では発泡酒に対して「ビールの代替品」という印象が少なからず根付いており、ビールと発泡酒の具体的な違いまでは一般的には認知されていません。

伝統的なベルギービールであっても、この「発泡酒」の表記が書かれていることで、ネガティブな印象を消費者に与えてしまったこともあったと思われます。

改正前の酒税法では、発泡酒は麦芽を50%以上使っていればビールと同じ税率になりますが、定義外の副原料を使用すれば「発泡酒」と呼ばれてしまいました。
ビールと同じ税金を収めているのに、表記は発泡酒…。
これには大きな問題があったと思います。

2019年の酒税法改正は、多くの高品質な発泡酒をビールへと変えたという意味では価値のあるものだと言えるでしょう。

しかしながら、今回のビール定義の緩和はあらゆるすべての副原料の使用を許したわけではありません。
そのため、いまだに素晴らしい品質のクラフトビールが日本国内で発泡酒と名乗らなければいけない状況は続いているのです。

規制緩和が生み出す多様性

規制緩和は日本のビールに多様性を生み出す大きなきっかけになると思います。

ビールの定義が広がったことで、これまで発泡酒であったものはビールと名乗れるようにになりました。
これからは様々な副原料を使用したビールが造られ、クラフトビール全体の市場が活性化することが見込まれています。

また、ビールの酒税が下ることもクラフトビールにとっては追い風となるでしょう。
ビール類の酒税一本化によって、多くのクラフトビールビールは実質的な値下げとなります。
クラフトビールは厳選された素材の使用や、冷蔵流通などのコストがかかるため単価がどうしても高くなってしまう商品でした。
税のコストが下がれば、クラフトビールの販売価格にもそれが反映され、より多くの消費者がクラフトビールを買い求めやすくなるかもしれませんね。

もしクラフトビールの販売価格が下らなかったとしても、減税はブルワリーの収益性を高めることに繋がるので、クラフトビール業界全体としては良い傾向であると言えるでしょう。

発泡酒とマイクロブルワリーの関係について

発泡酒の多くは国内の大手メーカーによって生産されています。
しかし、クラフトビールシーンでは、とある理由で発泡酒をつくらざるを得ないマイクロブルワリーも存在しているのです。

そんな発泡酒とブルワリーの関係にまつわるエピソードをご紹介します。

あるイベントで私は麹が使われたビールを飲みました。
飲んだ感想としては味・香りともにあまり麹のニュアンスが感じられなかったっため、ブルワーの方になぜ麹を使っているのか話を聞いてみました。
すると「発泡酒にするためにあえて入れているだけ。麹を選んでいるのはなんとなく日本っぽいから」との答えが返ってきました。

これはどういうことかと言うと…
まず、麹は国の指定されたビールの原材料としては認められていません。なので、麹を使ったビールは発泡酒扱いとなります。そして、そのビールをつくっているブルワリーは発泡酒の醸造免許しか持っていませんでした。
このブルワリーがビールではなくあえて発泡酒を造ることの狙いは、税金をおさえること…ではなく、もう一つの課題の解決がありました。それが年間製造量です。

お酒の製造は免許制であることが酒税法で定められています。ビール類をつくるには「ビール免許」または「発泡酒免許」の取得が必要です。
ビール免許を取得するには年間60キロリットルのビール製造が必須条件となります。これは500ml缶で12,000本に換算することができます。
それに対して発泡酒免許の場合は、年間製造量は6キロリットルと1/10まで落ちるのです。
そのためマイクロブルワリーを立ち上げる場合は、製造量を抑えることができる発泡酒免許を取得することがほとんどです。

このようにブルワリーの立ち上げにおいて、年間製造量の縛りがあるということはあまり知られていません。
免許制度が厳しく開業が難しかったり、自家醸造が禁止されていたりと、作り手としての日本のビールシーンはなかなか苦労が多そうですね…。

国内大手ビールメーカーとビール類酒税一本化について

発泡酒や新ジャンルは、国内大手ビールメーカーが酒税法の穴をかいくぐって生み出したものでした。
それがこの度の酒税一本化によって、一部の発泡酒や新ジャンルが増税となることから各社からは反発の声が上がっています。
そもそも日本のビールにかかる税率は高く、現行の税率ではアメリカの9倍、ドイツの19倍(※)とされています。このような日本の税制から、国産大手ビールメーカーたちは2001年より「発泡酒の税率を下げる会」を設立し、ビール類の減税を求める運動を約20年に渡って続けています。

ビール類の全体の市場は年々縮小傾向にありますが、その内訳を見ますと発泡酒と新ジャンルのシェアは拡大を続け、特に新ジャンルはその中でも大きく伸長しています。
その消費者からの支持の影響からか、国内大手ビールメーカーの技術開発はめざましく、近年の発泡酒や新ジャンルはビールとほぼ遜色のない品質にまで進化しました。

今回の発泡酒・新ジャンルの実質的な増税は、安価で美味しい商品をわたしたちに届けようとする各ビールメーカーの企業努力を無駄にするようなものとの意見もあります。

また、このまま予定通りに酒税の一本化が進めば、低価格が最大の売りである新ジャンルという商品は消滅していくことも考えられます。それを見据えて各社がどのように戦略を立てて動いていくのかにも注目です。

クラフトビール業界に大手が本格的に参入!?
なんてことも妄想出来ちゃいますね~

※参考:ビール・発泡酒・新ジャンル商品の酒税に関する要望書 2019年8月

ユニークな副原料を使ったおすすめビール5選

それでは最後におすすめビールのご紹介です!
副原料を使った個性豊かなビールたちを厳選しました!気になるものがあったら是非飲んでみて下さい!

1. 常陸野ネストビール「だいだいエール」

常陸野産の橙(だいだい)である「福来みかん」を使用したIPA。
オレンジのフレッシュで苦味のある風味がIPAとマッチします!

2. スワンレイクビール「越乃米こしひかり仕込みビール」

新潟県産のこしひかりを使用したラガービール。
米ならではのキレの良さが特徴で、クセがなく非常に飲みやすいです。

3. 黄桜「京都麦味 抹茶」

京都の名産物「抹茶」と京都の名水「伏水」で仕込んだビール。
緑色の見た目と芳醇な香りは抹茶そのもの!アルコール度数9%のコクのある味わいも楽しめます。

4. Upslope「Rocky Mountain Kolsch」

はちみつとセージを加えたフレッシュな味わいのケルシュ。
はちみつの甘酸っぱさとセージの爽やかな香りが絶妙に混ざりあいます!

5. サンクトガーレン「スイートバニラスタウト」

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サンクトガーレン
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副原料にバニラビーンズを使った、甘い風味のスタウト。
バニラチョコのような深い甘さを香りに感じますが、味わいはすっきりとしています。

まとめ

今回は発泡酒とクラフトビールの関係についてお話させていただきました。
すこし小難しい話になってしましましたね…
というわけで今回の記事の内容をまとめます!

  • ビール類には「ビール」「発泡酒」「新ジャンル」があり、酒税法によって分類される
  • ビール定義の規制緩和とビール類の酒税一本化によって、クラフトビールの市場が広がる可能性がある
  • 発泡酒=ビールより美味しくないというわけではない

とりわけクラフトビールの分野においては、発泡酒と表記されている商品はなにか訳アリの場合がほとんどです。

ですので、これから発泡酒表記のクラフトビールを見つけたときは、

「このビールはこの副原料を使っているからビールと名乗れないんだな〜」
「ここのブルワリーは小規模だから発泡酒免許でビールをつくっているのかな?」
「モルト以外の糖分をたくさん使っているから発泡酒なのか〜!」

など、なぜその商品が発泡酒なのかを考えたら楽しくなること間違いないと思います!

日本ではビール類には定義がありますが、クラフトビールには定義がありません!
自由にフラットに楽しめるところがクラフトビールの魅力ですので、名前に惑わされず、美味しいビールを楽しんでいきましょう!

それではまた!

【参考文献】
酒税法 – e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=328AC0000000006

発泡酒の税率を下げる会
http://www.happoshu.com/

平成 29 年度税制改正によるビールの定義の改正に関するQ&A
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0018004-031_01.pdf

酒税法等の改正あらまし2018.4
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/kaisei/aramashi2017/index.pdf

熊倉
この記事を書いた人
熊倉
1993年生まれ、酒屋勤務、新潟市在住。いろいろお酒を飲むけどいつもビールに戻ってくる。セッションIPAを水筒に入れて持ち歩きたい。大衆酒場が好き。
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